ルークさま、と静かに呼ぶ。声が震えないかだけが心配だった。
「わたくしが、危険なところに——戦地に赴く男性のハンカチに刺繍をする意味を、知らぬとお思いですか」
刺繍は祈りだった。
「わたくしが、あなたさまのご無事を祈らないとお思いですか」
待つことしかできない歯がゆさの、見送ることしかできない非力さの、すべてを込めて刺繍をする。
刺繍はそのひと針ひと針をさしながら、待つ側が、このひとに無事に帰ってきてほしいと祈るためのものなのだ。
「……いつですか」
「え」
「ご出立はいつですか」
「七日後の、夕方に……」
「刺繍をするハンカチはこちらでよろしいのですね?」
「は、はい」
上ずった返事を気にする余裕はない。お帰りください、と唸るような声が出た。
「はっ?」
「無礼を承知で申し上げます。お帰りくださいませ。今すぐに取りかかれば多少は見られるものになりましょう。のんびりお話している時間はございません。お帰りくださいませ」
「み、見ていてはいけませんか」
「祈りを縫いつける過程をご覧になったとして、その祈りが聞き届けられるとお思いですの……?」
「わたくしが、危険なところに——戦地に赴く男性のハンカチに刺繍をする意味を、知らぬとお思いですか」
刺繍は祈りだった。
「わたくしが、あなたさまのご無事を祈らないとお思いですか」
待つことしかできない歯がゆさの、見送ることしかできない非力さの、すべてを込めて刺繍をする。
刺繍はそのひと針ひと針をさしながら、待つ側が、このひとに無事に帰ってきてほしいと祈るためのものなのだ。
「……いつですか」
「え」
「ご出立はいつですか」
「七日後の、夕方に……」
「刺繍をするハンカチはこちらでよろしいのですね?」
「は、はい」
上ずった返事を気にする余裕はない。お帰りください、と唸るような声が出た。
「はっ?」
「無礼を承知で申し上げます。お帰りくださいませ。今すぐに取りかかれば多少は見られるものになりましょう。のんびりお話している時間はございません。お帰りくださいませ」
「み、見ていてはいけませんか」
「祈りを縫いつける過程をご覧になったとして、その祈りが聞き届けられるとお思いですの……?」


