あなたに呪いを差し上げましょう(短編)

ルークさまはどちらにお住まいなのですか、と尋ねた返事は有名な貴族街の大通りだった。大貴族の別宅が居並ぶ、高級住宅街のひとつ。


中心地に住む貴族は二つに大別される。おそろしく貴いお方か、貴族ではあるものの中流で、自分より高い身分の貴人にお使えしているか。

多分このひとは、おそろしく身分が高い方だ。名乗らないことに慣れすぎるほど。


褒めるのに慣れた口調。慎重さを感じさせないのによく選ばれた華やかな話題。口元にはいた微笑みはずっと崩れていない。


怪しすぎる、と思った。このひとはだめだ、と心が警鐘を鳴らしていた。それでも、するりと入り込まれた警戒心の隅で、もっと話がしたいと思ってしまう。


「アンジーは、ヴェールがお好きなんですか?」


家の中でもかぶっているのを不審に感じたらしい。


ええ、と曖昧に返事をする。顔を隠したいだけで、ほんとうは好きも嫌いもない。


そうですか、とあっさり頷いたルークさまは、いたずらっぽく笑った。


「そう隠されると、そのヴェールの下を覗いてみたくなりますね」


ふと伸ばされた手が布を持ち上げる前に、そっと押し戻す。


「つまらない顔がひとつあるだけですわ」