奴隷商に売り払われたり森に捨てられたりしなかったのは、ほんとうに幸運なのだ。
忌子は生きている間ずっと存在を否定され続けて、そして死ぬ。そう決まっている。
いつ呪われるかもわからないのに呪われ令嬢をわざわざ見ようとする物好きなんていないし、わたくしの屋敷に近づくひともいないし、父には書き置きをして、御者には本邸に戻って待機し、終わる頃にルークさまを迎えに来るよう頼めばいい。
おおよそ宴の終わりの時間は決まっている。それだけで誰にも気づかれずに隠れられるだろう。
御者には二人で乗り込むところを見られてしまうけれど、少しチップを弾めば余計なことは言わないはず。呪いは誰でも怖いはずだ。
「むしろあなたさまにこそ、ご迷惑をおかけしてしまいませんか」
このひとは呪われ令嬢を知らなくても、このひと以外の誰もが知っている。ほんとうは一緒にいたら迷惑をかけるのはわたくしの方だ。
ルークさまは少し目を見開いて、ゆっくり緩めた。
「……私にも、外聞も何もありませんので」
「それは幸運ですわ。では参りましょう」
さっさと馬車を待たせている方に向かうと、追いかけてきて隣に並びながら、ルークさまが笑った。
「あなたは不思議な方ですね、アンジー」
あら、と思わず笑いがもれる。
「あなたさまはおかしな方ですわ、ルークさま」
忌子は生きている間ずっと存在を否定され続けて、そして死ぬ。そう決まっている。
いつ呪われるかもわからないのに呪われ令嬢をわざわざ見ようとする物好きなんていないし、わたくしの屋敷に近づくひともいないし、父には書き置きをして、御者には本邸に戻って待機し、終わる頃にルークさまを迎えに来るよう頼めばいい。
おおよそ宴の終わりの時間は決まっている。それだけで誰にも気づかれずに隠れられるだろう。
御者には二人で乗り込むところを見られてしまうけれど、少しチップを弾めば余計なことは言わないはず。呪いは誰でも怖いはずだ。
「むしろあなたさまにこそ、ご迷惑をおかけしてしまいませんか」
このひとは呪われ令嬢を知らなくても、このひと以外の誰もが知っている。ほんとうは一緒にいたら迷惑をかけるのはわたくしの方だ。
ルークさまは少し目を見開いて、ゆっくり緩めた。
「……私にも、外聞も何もありませんので」
「それは幸運ですわ。では参りましょう」
さっさと馬車を待たせている方に向かうと、追いかけてきて隣に並びながら、ルークさまが笑った。
「あなたは不思議な方ですね、アンジー」
あら、と思わず笑いがもれる。
「あなたさまはおかしな方ですわ、ルークさま」


