あなたに呪いを差し上げましょう(短編)

「お屋敷、ですか?」


普通、令嬢が屋敷と言ったら実家のお屋敷のことなので、戸惑っているのは分かる。


わたくしの場合は実家ではなくて、わたくし一人の屋敷のことだけれど、説明すると面倒くさくなりそうで、頷くだけに留める。


「屋敷です。お恥ずかしながら大変狭いところですが、お茶くらいはお出ししますし、椅子くらいはございます」

「……それは、応接間ということですよね?」

「屋敷とは名ばかりの大変狭い屋敷でして、一部屋しかございませんので、応接間とも私室とも言えると思いますわ」

「つまりそれは、あなたのお部屋ということでは……」

「ええまあ、平たく言えばその通りですわね」


アンジー、と低く抑えた声がわたくしを呼んだ。頭痛を堪えるみたいな顔をしている。


「申し訳ございません。わたくしは他に隠れ場所を存じませんので、そちら以外はご案内できかねます」

「お心遣いは大変嬉しいのですが、初対面の男をお部屋に招くのはおやめになった方がよろしいかと思いますが」

「まあ。大丈夫ですわ。あなたさまはそんなおつもりはないのでしょう?」

「……もちろんそうですが、そういうことではなくて」

「大丈夫ですわ」


静かに繰り返したわたくしに、いいえ、とルークさまも繰り返した。


「私がどうということではなくて、あなたのことです」

「わたくし、ですか?」


よくわからなくて聞き返すと、言いにくそうに口ごもってから、ゆっくり口を開いた。