あなたに呪いを差し上げましょう(短編)

ちなみに、ルークではなくてルークさまにしたのは、このうつくしいひとの身分が分からないからだ。


不敬罪は遠慮したい。間違ってもルークなんて呼ばないように、心の中でもルークさまって呼んでおいた方がいいかもしれない。


「私はどのようにお呼びすればよろしいですか」

「アンジェリカとお呼びくださいませ」


にこやかな笑顔のルークさまに淡々と言ったら、ひどいお方だ、と流麗な眉が上がった。


「アンジェリカ嬢。私は愛称を教えていただきたいのですが」

「……アンジェリカとお呼びくださいませ」


これは手厳しい、とうなだれてみせる男にきつく手を握る。


きっと何気なく口にしたはずの言葉なのに、胸が痛かった。


誰もわたくしの愛称なんて呼ばなかった。ただそこにいないもののように扱われた。

……わたくしに、愛称なんて。


答えないでいると、うつくしい男がふわりと優しく微笑む。


「アンジーと呼んでも?」

「…………ええ」


どうにか平坦に作り替えた声色で返事をする頃には、あれほど堪えきれなかった涙もすっかり落ち着き、濡れそぼったまつ毛はとっくに乾いていた。