あなたに呪いを差し上げましょう(短編)

「親しいひとはみな、ルークと呼びます」


なるほど、愛称から考えたらしい。


さようでございますか、とまた気のない相槌を打ったわたくしに、少し苦笑して。


「ルークと呼んでくださいと、言ったつもりだったのですが」


——呼んではくださらないのですか。


「っ」


拗ねたような甘い顔つきに、頬がひくりとこわばった。


この方は、ほんとうに、ほんっとうに世慣れていらっしゃるらしいわ……!!


自分の顔を分かってやっているに違いない。端整な顔立ちでなければ許されない台詞と表情だもの、確信犯に決まっている。

今まで許されてきたから、そんな顔ができるのだ。


きつく握りしめた手のひらはドレスに隠して、慌てて平坦な声を作った。


「……ではわたくしも、ルークさまとお呼びしてもよろしいでしょうか」

「ええ、もちろんです」


それ以外の選択肢が見当たらなくて、仕方なく明らかな社交辞令を述べたわたくしに即答したルークさまは、にこにこ笑っている。


ああもう、悔しいくらい格好いい。


からかわれていると分かっていても、勝手に心臓がうるさくなる。


ルークさまなんて全然呼ぶ気はないけれど、ありがとう存じます、と控えめにお礼を言っておいた。