あなたに呪いを差し上げましょう(短編)

……いいえ、実際他人事ね。わたくしは誰かを呪えはしないのだもの。


近づくと呪われてしまうかは、そんなに長くそばにいてくれるひとがいなかったから分からない。


そもそも誰かを呪いたいと思ったことなんてない。


でも、そばにいようとしてくれた優しいひとには(いとま)を出して、別の仕事を紹介した。


わたくしのところにずっと通っていたら、悪い評判が立ってしまう。


頼み込んでなんとかつけてもらった家庭教師から、成人するまでに大抵のことは一通り教わった。


ダンスやサロンといった社交のことはそれほど分からないけれど、どのみち社交なんてできないから、知らなくてもいい。


得意の刺繍でささやかながら収入がある。呪われ令嬢の名前を隠して城下町の市場に売ると、少しは腕がいいらしく、小金にはなった。


自分のことはできる限り自分でするようにしていたら、今となってはもう、屋敷に来るのは食事を運ぶ係だけになった。


食事は申し訳ないけれど、離れたところに小さな小屋を作って、そこで料理番に作って運んでもらっている。


毒味はしない。


信用していないわけではないけれど、それより何より、死ぬことは怖くないから。


ときたま一人でも着られる簡素な服だとか生活用品だとかを頼んで、料理と一緒に運んでもらう。


そうやってささやかに毎日を消費する。


わたくしはあとどのくらい生き続ければいいのかしら、と思いながら。