あれからかれこれ二十年近くの年月が経った。


「やだー千利(せんり)がとったぁ」

「だって僕の!」

「もものだよぅ。返してぇ」


わんわん泣きじゃくるのは、私の小さいころとは違って、感情豊かで素直な娘の百花(ももか)。
静かにぼろぼろと泣くのは、その弟の千利。
私のかわいい子供たち。


「ほーら。喧嘩はやめなさいよー。何の取り合いしてたの?」

「ママぁ、ももちゃんが僕のアメちゃんとった」

「だって、ピンクだもん。ピンクはもものだもん。せんりは男の子なんだから、青いのだもん」


どうやら飴玉の取り合いらしい。
だれにもらったのか、大粒のビー玉みたいなきれいな飴だ。

私は体を起こし、ふたりを片腕にひとりずつ抱きしめる。


「飴、いっぱいあるじゃない。他の色じゃダメなの?」

「だってピンクだもん」

「……ぴんくだもん」


百花の後をまねて千利が言う。
姉が欲しがるものは千利も欲しい。そんな年頃なのだ。姉の真似事がしたくて仕方ない。

それが普通にできるわが子がうらやましい。
私と弟はそれが途中からできなくなったもの。


「じゃあ、ひとつしかなくて喧嘩するなら、これはママがもらうね」

「えっ、だめ!」


百花がうわああっと泣き出す。すると今度は、千利が私と百花を交互に見始めた。