イチくんがいなくても、もう私は一人でご飯を作れる。
時には友達を呼んで、話しながら鍋を囲む。そうすると、前よりちょっとずつ仲良くなれる気がする。

温かい料理の効能って、すごいよね。
イチくんが教えてくれたそれをきっと、私は一生、忘れることはないだろう。


そして時には、マコちゃんのもとを訪れる。


「こんにちはー」

「おー。瑞菜久しぶり! 裏で待ってろよ。じきにおふくろと交代するから」


マコちゃんは今やコンビニの制服を着て、お客の対応もしている。
背も百六十五センチを超え、今や普通にイケメンさん。愛想もいいので、看板娘ならぬ看板息子として人気があるらしい。

裏に回って、言われた通りおとなしく待っていると、やっぱり賞味期限切れのシュークリームをもってマコちゃんがやってきた。


「ほい」

「ありがと」

「仕事どう?」

「うん。だいぶ慣れた。学校もあるから忙しいけど、まあこうしてたまには休みもあるしね」

「たまの休みに会うのが俺でいいのかよ」


くははーと笑って、マコちゃんは私をちらりと見る。


「……だって、イチくんとは会えないもん」

「ハジメに聞いた。バカな約束するよなー、せっかく俺が身を引いてやったというのに」

「イチくんはバカだもん。仕方ない」

「瑞菜、容赦ない」


ふたりで笑いながら、こんな風に話せるようになったことにほっとする。