お母さんは、きっと一生変わらないんだろう。
だったらもういい。
だって私は知ったんだ。他に、そんなぬくもりをくれる他人だっているってこと。
家族は与えられたものだけじゃない。自分で作ることだってできるんだって。
私は鞄を拾い、そこにおみくじのように結ばれた紙切れがあるのに気付いた。
破れないようにそっと開いて、右上がりの癖のある文字を眺める。
【賭けは俺の勝ちだからな。お前、うまい言ったよな。だから俺のひとつだけ、俺の言うことを聞け】
「賭けって……」
なんかしたっけ。
うまいって……ああ、したかも。
『卒業までにお前にうまいって言わせたら俺の勝ちってことだな』
イチくんとのあの賭けのことか。てっきりもう話は流されたものだと思っていたのに。
さらに折られていた紙を広げる。
【今日のことは忘れて、明日も笑ってろ】
「…………」
ぽつり、と紙の上にしずくが落ちた。
だめだ、濡れちゃう。そしたら破れちゃうよ。
ぬらさないように、両手で挟んでガードする。だけど私の涙はぼろぼろとその上に落ち続けた。
手の中にあるのはずっと欲しかった大切なぬくもりだ。
壊したくない、壊れないで。
「……イチくん」
ベルが鳴ったとき、私はどうして出なかったんだろう。
あの時なら、話せたのに。せっかく会いに来てくれたのに。
「バカ、私のバカ」
連絡先も知らない。
あんなに毎日顔を合わせていたのに。
今すぐ飛んでいきたいのに、どこに行ったらいいのかわからない。
「イチくんたちがいなきゃ、……笑えないよ」
涙が止まらない。
イチくんの字を目に印刷されちゃうんじゃないかってくらい見つめて思う。
やっぱり、手放したくなんかない。
だってもう私にとって、イチくんやマコちゃんは家族だ。



