角を曲がり家が見えてきても、ほっとすることはない。
家には、いつも明かりがついていないから。
冬は日暮れが早い。まだ五時半なのに夜を感じさせる暗さだ。


「ただいまー」


返事はない。自分で廊下の電気、リビングの電気、キッチンの電気と順々につけていくと、キッチンにはラップに包まれた夕食が置いてある。

【おかえりなさい。レンジで温めて食べてください】

これが母親か父親の書置きなら少しは救われただろうけど、現実は昼間に通ってくる家政婦さんのものだ。

私の両親は仕事が忙しい。
父は貿易会社の社員で、国内や海外の拠点を行ったり来たりしているし。
母は化粧品のメーカーに勤めていて、管理職になってからは就業時間というくくりは全く関係のないものになってしまっている。
化粧品販売するのに自分が衰えるわけにはいかないと、土日はエステやマッサージに通いつめていて、家にいないのは日常茶飯事だ。

娘や息子にかまう暇のない両親は、昔からお金の力でかたを付けようとしていた。
小学校時代は習い事、中学時代は塾。予定をきっちり詰め込められ、遅くなればタクシーで帰るようにお金を渡される。

けどまあ、私という人間のキャパシティなど決まっている。
入りきらない分はこぼれるのだ。
覆水盆に返らずっていうでしょ。あれ? ちょっと使い方違う?
まあ気にしないでおこう。

そんなわけで、そこまでお金をかけてもらったにもかかわらず、私は本命の高校に落ちた。
両親はあきれたし、教師も渋い顔をした。

なぜなら私は、インフルエンザで私立のすべり止めを受けられなかったのだ。

結局、二次募集で入った今の高校は、私が狙っていたレベルからは二段階ほど下がり、進学率は悪く、ほとんどが高卒で就職する。
生徒は自由を重んじ、中学時代はついぞ見なかった規則違反だらけのヤンキーもたくさんいた。
親から見れば、一浪してでも別の学校に入ってほしかったろう。
でも私がここに行くと決めたとき、話し合いは決裂した。