桜の愛図





櫻の視線の先にいるのは、ひとりの女性。

前髪が斜めにカットされた奇抜なショートヘアは赤みがかった茶髪。

すらりと細く、長い足にパンツ姿がよく似合っている。

高いヒールを履きこなしていそうだけど、そこだけは予想外、足はローヒールの赤いパンプスに包まれている。



私とは縁がなさそうな人だけど、櫻の知り合いだということはなにも不思議ではない。

大人っぽくて綺麗だけど、なんかチャラそうだし。

……これはさすがに失礼か。



そんなことをぼんやり考えていると、ようやく目の前の人を認識したのか、櫻が叫ぶ。



「未来⁈」



ミク、というのが彼女の名前なんだろう。

彼が口にした言葉に笑みを浮かべ、女性が駆け寄って来る。



「お前、仕事は?」

「今日はお休み。買いものしようと思ってたら真琴見つけて驚いちゃった」

「休みにしても、こんなふらふらとひとりで……」

「だーいじょーぶだって!」



するりと伸ばされた細い指が櫻の髪をすいた。

ピンクの中にちらりと肌の色がのぞく。



「やーん、それにしてもやっぱ綺麗に染まってるね? あたし、めっちゃ上手くない?」

「ばか、俺さすがにピンク髪にするつもりなんてなかったんだけど」

「ピンクじゃなくて、桜色。
真琴の苗字に合わせたんだからね」

「どっちにしても派手すぎだって」

「でも似合ってるよー!」



ぽんぽんと交わされる言葉たちに口を挟むことはないけど、偶然にも彼の髪色の理由を知ることになった。

頭がおかしいとしか思えなかったこの色は、櫻が選んだわけではなかったんだ。