桜の愛図









春は、日が落ちるのが遅い。

時間帯はすっかり夕方と言っておかしくないのに、まだ外は明るく長時間学校にいたとは思えない。



「ちょっと疲れたねぇ」



そう言って、いつもならひとりで歩く駅までの道のりを隣で歩いているのは、櫻だ。

ふんわりと笑って、私の顔を覗きこむようにして、煩わしい。視界の邪魔だよ。

すっと瞳を細めた。



私が今年所属することになった保健委員の仕事は、昼休みに保健室で養護教諭の先生の補助をすること。

それは毎月変わる当番制で、今月は私と櫻が担当なんだ。

今日は放課後に会議が入ったとのことで、先生に頼まれて放課後まで保健室にいることに。

とはいえ怪我をした生徒が来なければ、特にこれといってすることはなく、ふたりで保健通信を作るだけで終わったんだけど。



そこで解散のはずが、どうしてか櫻は一緒に帰ろう! なんて言い出してしまった。

断ったはずが方面が同じこともあり、結局隣を歩く羽目に。



押しが強い。うざったい。

なんなんだろう、この強気な男は。



さっさと帰ろう、と足の運びをはやめたところで、



「真琴?」



櫻が肩を揺らし、その場でぴたりと動きをとめた。

つられて私も足を下ろす。