桜の愛図









カリカリ、とシャーペンが芯を短くする音。

ぱらりと問題集のページをめくり黙々と消化していく。



新学期がはじまったばかりとはいえ、もう長期休暇は終わったんだ。

本格的に授業がはじまる前に予習をしておこうと、私はいつものごとく机に向かっていた。



頭の中で数式を並べ、もう少しで答えが出るというところで、私の部屋の扉が開けられる。

しっかりと閉じられていたそれが勝手に開くはずもなく、人為的なものだとわかる。

ノックもなしに私の部屋にやって来るような人はひとりしかいない。



「ただいまー、春ー!」



ひとつ年上の姉。

……咲坂 花(さきさか はな)だ。



するりと部屋に足を踏み入れて私を背中から抱き締めるお姉ちゃん。

いや、抱きつくと言った方が正しいかも。

すがりつくように、しなだれかかるように、彼女の身体はふんわりと柔らかいのに離れそうにない。



「あのね、駅前に期間限定のシュークリームのお店ができててね、買ってもらったから一緒に食べよー?」



前髪はぱっつん、栗色のツインテールは緩く巻かれている。

大きな瞳にいつでもグロスでつやめく唇。

本人いわくキスしたくなるような唇がモットーらしい。