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キュッと上履きが廊下と擦れて音を立てる。
私と、それから隣の櫻の音だ。
今日で、偶然櫻の好きな人を知ってしまってから5日後。
出来上がった保健通信の内容を養護教諭の先生に確認してもらい、印刷と配布をお願いするためにふたりで保健室に向かっていた。
窓からはほとんど花びらが散った桜の木が風に揺れている。
青々とした葉に、桜の終わりを感じる。
きっともうすぐ、淡いピンクの花びらはすべて落ちることだろう。
それをぼんやりと眺める私は黙りこんだままだと言うのに、櫻は気にせずぺらぺらと喋り続けている。
クラスメートのこと、先生のこと、さらには私になんの関わりもない学校に行く途中で見かけた猫のこと。
よくこれだけ話題が尽きないものだ。
「ねぇねぇ春ちゃん、これ出し終わったらふたりで放課後デートしよーか」
「……」
「え、拒絶もなし?
まさか俺の存在なかったことにしてる?」
そういうわけじゃないけど、うるさいんだもの。
聞くつもりがなくても耳につくし、話していなくても疲れる。
無視してたんたん、と階段を降りて行く。
ひどいなぁと言いつつこたえた様子のない櫻の精神はいったいどうなっているんだろう。

