桜の愛図





「よく言うでしょー?
恋はするんじゃない、落ちるんだーって」



お姉ちゃんが知っているくらいだ、私だって何度も聞いたことがある。

だけど、だからなんだって言うの。



「そんな使い古されたセリフ……」

「春ってば、ばかにして!
使い古されたセリフって言うけどね、それだけ人が口にするってことはなにかの理由があるもんだよ」

「……」

「おねーちゃんはそう思うなぁ、なーんて」



えへへ、と笑うお姉ちゃんをまじまじと見つめる。

声のトーンも仕草も表情も、なにもかも普段と変わらない。

ばかな姉、だらしない姉、……私の姉。



だけど違うのだろうか。

私が今まで見ていた面だけが、すべてじゃないのだろうか。



頭に花を咲かせているみたいで、勉強もしないで恋にうつつを抜かしてばかり。

軽く上辺だけの付き合いで、本当に好きなわけじゃないと思っていたけど。



「……お姉ちゃんも、恋に落ちているの?」

「もっちろん!
いつもあたしから好きになるわけじゃないし、相手からの告白の時もあるよー?
でもね、これでもちゃーんと、好きな人としか付き合ったことないんだから!」



切り替えがはやすぎるとは言われるけどね、と言いながら、お姉ちゃんは揺らがない。

これが自分の想いの姿だと知っているから。



「毎回あたしはちゃんと好きな人と恋に落ちて、笑って、泣いて、日々を過ごしているんだよ」



だからきっと、春も誰かと恋に落ちるよ。

そう言って、お姉ちゃんはまるでしっかりした姉のように、まっすぐ私を見つめて頭をぽんぽんと撫でた。