「ねぇねぇ彼氏? 春ってばいつの間に?」
「違う!」
未来さんといいお姉ちゃんといい、なんなんだ。
櫻と恋人に勘違いされてばかりで。
今日は厄日か。
「彼氏じゃないなら、春が好きな人?」
「そんなわけない」
「じゃあ、春を好きな人?」
「っ、」
それこそもっと違う。
さっきまでみたいに鋭く返してしまえばいいのに、息をつまらせて、私はそっと吐き出す。
あの人は、私なんかじゃない。
他の人を想っている。
「あいつ、好きな人いるよ」
「あれぇ、なーんだ」
櫻が好きなのはもっと明るくて、私とは程遠くて、魅力的な人。
彼と似ていて、釣りあいが取れていると思うのに、……なのに叶わない。
世の中ってうまくいかない。
笑っていた櫻にだって、色々な事情があった。
あんな、あんな想い……私はしたくない。
「それに私、恋なんてしないから」
ローファーを脱いで、家に上がる。
部屋に行く、と彼女を押し退けて隣をすり抜けた。
するときょとんとしていたはずのお姉ちゃんの軽やかな笑い声。場違いな、声だ。
くすくすとこらえきれずもれるそれと共に、受け入れがたい言葉がほろりほろりと廊下に落ちる。
「春って勉強はできるのに、そういうところはおばかさんなんだねぇ」
「は?」
私は険のある言い方をしているのに、それに対してお姉ちゃんがこれといった反応を返すことはない。
風にあおられる花のようにひらりひらり、短いスカートの裾を揺らす。

