桜の愛図









「ただいま」



玄関の扉を開けて、反射のように言葉を落とす。

そのまま一緒に息を吐き出した。



櫻の未来さんについての話を聞いて、そのあと。

路線が同じと判明し、さらに私の降りる駅が定期券内だったことから、櫻は家の前まで送ってくれた。

女の子ひとりは危ないからね、なんてチャラ男は言うことがすごい。



気まずい空気をかき消すように、いつも以上に面倒な絡みをしていた彼には一応ここまで来てくれたお礼を告げた。

だけど扉という物理的にふたりの間を遮断してくれるものに思わずほっとしてしまったことも事実だ。



だって、あんな話を聞いて、いくら私でもさすがに気をつかう。

好ましく思っていなかったはずの相手の予想もしなかった姿に、どんな顔をしていればいいのかなんてわからない。



部屋に戻って着替えよう、とそう思った時、突然私に襲いかかる衝撃。



「いっ……!」

「は〜る〜!」



私にぎゅっと抱きついて、ついでに言えば頰を擦りつけているのは、お姉ちゃん。

ツインテールの毛先が目の前で踊っている。



「春を送ってくれた人、誰? 誰〜?」



ああ、やられた。

なんてこと。

よりによってお姉ちゃんに見られていたなんて、大げさじゃなく最悪だ。