桜の愛図





隣から重たいため息が聞こえる。

普段の私と逆転しているかのようで、なんだか不思議な気がする。



「ごめん春ちゃん……巻きこんじゃったね……」



顔を掌で覆った隙間から、情けなく下がった眉や困ったような瞳がのぞいている。

それがほんのわずかに甘く、陰っていたことに驚く。



「いいけど……」



いつもだったらいい迷惑、くらい言うのに今は気が引ける。

今まで見たことのない櫻の姿、態度。

涙なんて浮かんでいないのに、まるで泣いているような表情。

私は、ふっと勘づいてしまった。



それは、たまたま。偶然。

未来さんと接する櫻を見かけたせいで、私は櫻の気持ちに自然と気づいてしまったんだ。



落ち着いたところで、ゆっくりと櫻が駅へと歩きはじめる。

私も着いて行くかのように1歩ずつ足を運ぶ。



「未来は、俺の5つ上の従姉妹。
美容師で、まだ未来が専門学校に通っていた時から俺はあいつの練習台になっていたんだよ」

「へぇ……」

「この髪も、未来がやったんだ。
派手だと思ったけど俺がそんなこと言うのキャラじゃないし? 黙ってたのに、春ちゃんに知られちゃってちょっと恥ずかしいな〜」