桜の愛図





ふたりのやりとりを私はただぼんやりと眺める。

場違いだと思いつつもタイミングを逃してしまい、立ち去ることは難しい。

それに……どうにも気になる。



櫻はなんだかいつもの櫻じゃないみたい。



へらへらと笑っているだけで、女子と見れば優しくして。

そんないけすかない態度が櫻だと今の今まで思っていた。



だけどこの瞬間、未来さんと話す櫻はぶっきらぼうな口調をしていて、どろどろに相手を甘やかすだけじゃない。

対等、というか、気安い。

本当に心を許していることがわかる。

おそらく今の櫻が本当の櫻なんだろう。



そんなことを考えていると、未来さんの視線が私に向けられる。

目をそらすことができないまま、そのまっすぐな瞳を受け止める。



「真琴ってば、こんな真面目そうな子たぶらかしてまったく。彼女?」

「ちっげぇよ!」

「あ、いいのいいの。照れなくて。
彼女ちゃん、真琴と仲よくね!」



にっこりと笑った目尻にわずかにしわが入る。

私と違ってよく笑顔を浮かべていることがわかる顔だ。



否定の言葉は聞き届けられず、じゃあまたね! と櫻の肩を叩いて、身を翻した。

こつこつ、と気持ちばかりのヒールがアスファルトに打ちつけられ、小さく音を立てていた。