「俺はずっとお前のこと待ってた」
「待ってた……?」
トクン……トクン……と。
秋十の胸の内側から聞こえてくる鼓動の音。
私の鼓動も反響したみたいに音を奏でる。
「お前、ちっとも笑ってくれないから」
「えっ?」
不機嫌そうな声に胸の中から顔を上げた。
「笑ってほしくて、お前のこと追いかけてた。気づいたらお前に夢中になって……お前しか見えない俺がいて」
ずっとずっと私を見てくれていたなんて……。
そんなこと言うなんて、ズルいよ。
なのに、私は秋十に笑いかけたことなんてなかったんじゃないかな。
「仁菜、ちゃんと顔見せて?」
私の涙をすっと親指で拭ってくれる。
私を映す黒い瞳が優しく緩んだ。
秋十の微笑みを見つめていたら、私まで自然と笑顔になれる。
「笑った顔、先生に似てるな……」
大好きなお父さんの笑顔に。



