「なぁ?仁菜」



吐息混じりに名前を呼んで首を傾ける。

名前で呼ばないでほしい……。


それに、アンタが彼氏じゃ、私の目的は達成出来ないんだよ。



「堤みたいなヤツから、お前のこと守ってやるくらい出来るよ?」



やけに真剣さを含んだ声。

守る……って。

その言葉をいじめっこだったアンタが言わないでよ。


それにその言葉は、私の心に隠した記憶に触れたようで、胸が痛くなるから。


思い出すと、立っていることも出来ないほど苦しい記憶。


吸い込まれそうな大きな黒い瞳を、私はこれ以上見てられない……。



「っ、冗談じゃない………アンタだけは無理!私の……け、圏外ナンバーワンだから!バカじゃないの………」



ありえない、ありえない………。



「それに……守ってもらおうなんて思ってない」



私は動揺を隠すように叫んで両手を付きだすと、桐生秋十の身体を押し退けた。



「…そんなに俺が嫌いかよ?」



お、驚いた……。


てっきりまた「なーんてな?」とか言って嫌味を含んだ笑みを浮かべると思ってたから。