ーーーだから。


お母さんの中でいつまでも桐生秋十はヒーローだったはず。


なのに、なんで私が嫌いだってことを、知ってたの?



「子供の顔を見れば、お母さんはわかるの」



お母さんは、子供のことはなんでもお見通しだったね……。



「……だ、だって!いつも、意地悪してきて……ほんとに、意地悪なヤツで……っ、」



すると、お母さんはタンスの上に飾れた写真へと目を向ける。


豪快に笑うお父さん。

大好きな……私の大好きな、お父さんの笑顔。



「それは、本当に意地悪だったのかな……」



お母さんの凪いだ海のような声が宙を舞う。


けど、そっと私を見つめる瞳がほんの一瞬、悲しそうに揺れた。



「私だって、わかんないよ……っ、」



苦しくて、泣きたくて。


私はアパートを飛び出した。