バランスが崩れて前のめりになった身体は、大嫌いな桐生秋十の端正な顔に近づいてしまう……。
「じゃあなんで、今俺の顔見てんの?一年以上、目も合わせなかったクセに」
「……っ、」
私がそうしてきたことを知ってる……。
目の前の桐生秋十の長い前髪がサラリとおでこをなぞると、大嫌いな瞳がより鮮明に映る。
「なんで今、お前の声聞かせてくれんの?」
ずっとずっと無視してきたのは私……。
久しぶりに近くで聞いた声は、少し低い。
流れるように、ゆっくりと、私の瞳を真っ直ぐに見つめて問いかけてきた。
その口調が、なぜか大魔王らしくなくて……。
「は、離してよ。アンタと話すのはこれっきりだから……!ほんとに、これっきり……」
もう二度と関わりたくもない。
なんで私だけ、いつまでもこんなにアンタのことで悩まなきゃいけないの……?
その上、なんで私がアンタが原因で彼氏が出来ないみたいに思われなきゃいけないの………?
冗談じゃない………!



