ドキリッ、と。

鼓動が激しくなって思わず後ろへ振り返る。



「…………き、桐生秋十、」



中学三年間、そして高校に入ってからの今までずっと無視をし続けた私が、何年ぶりかに返した言葉。


黒水晶のような瞳が真っ直ぐに私を捉えている。


不本意にも、一年以上ぶりに目が合った。


ううん……私がアンタを見たから、視線を交わすことがなかった私達は目が合ったんだ。


最悪………。

てっきりもう帰ったと思ってたのに、なんて神出鬼没なの?



「なに、その顔?相変わらずムカつく」



だったら声かけたりしないでほしい。


教室の出口の扉は開けっぱなしになっていて、そこに寄りかかるようにして立っている。



「じゃあ、話しかけないでよ……っ、私だって、今でもアンタにムカついてるんだから……」



一刻も早くこの場所から立ち去りたくて、席を立った私はカバンを握り締めた。


今はもういじめてないからって、当時のことは水に流せることじゃないもん。