「それ、どういう意味?」


下から見つめられて、逃げ場がなくなった。

こんなにあからさまな反応をしておいて、誤魔化すことなんてできるわけない。

わかっているくせに言わせようとする本多くんは意地悪で、ずるいと思った。




「……言えない」

「なんで?」


はずかしくて、


「むり、だから……」


両手で顔を覆うと、腕にぐっと力を込められた。



「おれのほうが、」


何かを言いかけた言葉は途切れて、代わりに抱き締められた。



本多くんといると思考回路が奪われる。

どんなに恥ずかしくても、この腕の中にずっといたいと思ってしまう。



「じゃあ約束して」


本多くんの甘い声が耳をくすぐった。



「俺が退院して学校に戻ってきたら、ちゃんと教えるって」



小指を、あたしの顔の前に持ってきて、本多くんが笑う。




ゆっくりと自分の小指を絡ませる。


開いた窓から流れてきたやさしい夜風が

あたしたちの髪をやさしく撫でた。






暗黒王子と危ない夜 【完】