相手は、銃を構えたまま。
だけど、手が震えているのがここからでもわかる。
本多くんは怯む素振りも一切見せず、さらに相手に近づいていく。
「ねえ、早くその引き金を引きなよ。おれのこと、殺したいんでしょ」
また一歩、距離を詰める。
そして、変わらず震え続ける深川の手をとった。
銃を掴む手に自分の手を添えて、己の胸に当ててみせる。
──何を、しているの……。
「ほら、撃てよ」
銃口が本多くんの胸元に当たっている。
正確には、本多くんが自らそこに当てている。
「 撃てっつってんだろ ! 」
怒号が響き渡った。
直後、銃を奪った本多くんが、それを地面に投げ捨てる。
それから瞬きをする間もなく、長い脚が相手の体を蹴り飛ばした。
倒れた深川がうめき声を上げる。
「お前、もう二度と銃を持つな」
背筋が凍るくらい冷ややかな声。
「これを使っていいのは、誰かのために自分の命を懸けられる人間だけだ」
冷たさの中に、少しだけ悲しい響きを孕んで、無機質な空間に溶けていく。
「深川さんごめん。おれ、気が変わったんだ」
「っ、………」
「抗争が終わったら、おれの大切な黒蘭を返してもらうね」
横たわった体に、容赦なく次の一撃が入る。
「ぐ、……っ、は」
それが、何度も何度も繰り返された。
あたしたちは、呆然とその光景を眺めることしかできなかった。