俺は“深川”が支配する黒蘭に堕ちた。──フリをした。

俺が黒蘭にいることがわかれば、七瀬はきっと、こちら側に乗り込んでくる。


これは賭けと言えば賭けだけど、実行したのは確信があったからだ。

──七瀬にとって、俺は “ どうでもいい ” 存在ではないと。



暗い世界から救ってくれた。

正しさの、正しい線引きを教えてくれた。

知らなかった優しさを与えてくれた。


俺が堕ちたら、また、今でもきっと……絶対。

手を伸ばして、引き上げに来てくれる、って──。



それからもう一つ。

俺が黒蘭にいれば内部の情報が全て手に入る。


深川が何を企んでいるのか、七瀬に何を仕掛けるのか。

味方のふりさえしていれば、深川の一番近くで行動できる。

すなわち、本当に危ないときに、誰よりもはやく七瀬を助けられる。



ちょうど、今みたいな状況のために。

……そう、思ってたのに。



甘かった。

深川はセオリー通りに動く男じゃない。

感情次第で、順序なんていくらでもすっ飛ばして標的に襲いかかる怪物。



どうすればいい。

考えろ……──考えろ。




七瀬の目的は黒蘭を終わらせること。

正しくは、深川と一対一でやり合って、総長の座から降りさせること。


この計画に乗ることは生憎できなかった。


“ 組織を終わらせる” というのは、その組織のトップの人間にしかできないことだから。

そのときの頭を潰したって、七瀬が黒蘭にいない限り、また誰かが作り上げる。



七瀬は「黒蘭の一員」として深川を潰さなければいけない。


黒蘭のメンバー全員に、直接、深川よりも本多七瀬が強いことを見せて、知らしめれば、やつらは自然と本多側につく。


だからまずは、本多を黒蘭に戻す必要があった。


深川を潰すにはまだ時期じゃない。


だから俺は、長い目で見てバランスを保とうとした。
深川を勝たせることもせず、七瀬が深川に勝つこともできないように。



七瀬がやろうとしているのは組同士の抗争。

だけど深川に、もうその意思はない。

この男は、本多七瀬を殺すことしか考えていない。