「これはね、誕生日に父さんにもらった銃なんだ。モデルガンなんかじゃない。火薬の匂いが全然違うだろ、琉生君もわかるよね。やっと、使う日が来た……」



恍惚とした表情で銃を見つめたかと思えば、今度は近くにあった椅子を蹴り倒す。


手のつけようがない。

銃なんて、同じ環境で育った人間ならずっと身近に存在していた物ではあるけれど、大人になる前に持たせるのはいくらなんでも常識外だ。


一体いつから触っていたんだ。

扱いには慣れているのか。

父親に……深川宗二に教わったのか。



崩れていく……俺の計画が。

俺にとっての“今日”は、ほんの手始めのはずだったのに。

急加速して、一気に終わりまで引きずり込まれる。




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俺が黒蘭に戻ったのは、七瀬をもう一度「こちら側」に連れてくるため。


深川が黒蘭の総長であり続ければ、本来の黒蘭にはもう戻れない。どんどん汚く染まっていく。


七瀬が黒蘭を抜けて、距離をおいたとしても所詮、俺たちの生きる世界は同じだ。切り離せない。


このまま進めば、大人になった深川は必ずトップの権力者になる。


誰も逆らえない、西区の裏の支配者──つまりは、今の三崎慶一郎の座に就く、ということ。


七瀬には、この世界からきっぱりと足を洗って、普通の世界で生きる道もある。


だけど、七瀬はきっとそれを選ばない。

自分の父親が守った黒蘭を、……あいつは絶対に切り捨てられないから。



深川が力をつけて信者が周りを取り囲めば、いくら七瀬でも敵わない。

汚れていく黒蘭を目の前にしながら、七瀬は一生もがき苦しむことになる。



だから、七瀬が “今”、黒蘭の総長の座にいる必要があるんだ。

取り返しがつかなくなる前に。