深川が見せた、七瀬とエナのやり取りの最後のメッセージ。
【私は深川くんのことを誰より知ってるから、この作戦は絶対うまくいく。大丈夫だよ】
【人質のフリから開放されたあとは、私はお兄ちゃんに迎えを頼んでそのまま家に帰る。そのあとのことは、七瀬に任せる】
「ぶっ殺してやる!」
怒号が響く。
まずい。
夜を待つなんて選択肢はもうこの男にはない。
今すぐにでも七瀬を撃ち殺そうと殺気立っている。
スマホを確認した。
午前8時40分。
──どうすれば。
どうすればこの流れを変えられる?
食い止めなければいけない。
せめて、少しでも長く時間を稼ぎたい。
「深川さん、陽が出ている間の大きな喧嘩はご法度です。会の大人にバレてしまったらどんな罰がくだるかわかりません」
これは喧嘩なんて生ぬるいものじゃないと分かっている。
俺は少しだけ鈍いふりをして、真面目くさったルールをかざし、思いとどまらせようと必死に言葉を繋いだ。
「それがどうした? 琉生君もわかるだろ、僕の気持ち。自分の幸せを潰した人間だよ、1回殺しても足りないくらいだ!」
「でも深川さん!」
「一瞬の罰と永遠の苦しみ、天秤にかけるまでもないだろ!」
パンッと乾いた音がした。
一瞬だけ冷静になる。
……そうだ、思い出した。
銃の音って案外、間抜けなものだった。
生まれてから何度も耳にしたことがある。
映画とかに使われる効果音みたいに、『バン!』だなんて、重みのあるかっこいい音は出ない。
そう、よく響きはするものの、笑っちゃうくらいめちゃくちゃに軽いんだ。
……それなのに、弾丸一つで、この部屋の分厚いスモークガラスをいとも簡単に打ち砕く。
この男は正気じゃない。
──手遅れだ。
下手すれば俺も殺される。



