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『こうするしかない』
『こうするって、』
『お互い下の名前で呼ぶのやめよ。怪しまれる。おまえ、今度こそ殺されるかも』
『……わかった』
また場面が切り替わる。
いつの間にか、俺たちは市川さんの店にいた。
『組の子供も何人も通ってるし、学校では絶対話さない』
言い出したのは七瀬。
『そしたら、もう、るきは殴られないで済むから』……って。
『おれはお前のことが嫌い』
『俺もお前のことが嫌い』
笑えるくらい真面目な顔で話してた。
──なのに。
『ねえちょっと!うさぎ死んでたんだけど!』
『うえっ。まじで?』
『さっきそば通ったら動かなくなってた。黒いやつ。先生に言ったほうがいい?』
『誰が埋めんだよ。オレぜってぇ触りたくないんですけど』
クラスメイトの会話が聞こえてきて。
一瞬で体が冷えきった。
だって、朝まで生きてた。俺は、生きて動いてるのを見てたんだもんな。
思い返せば、たしかに最近食欲がなかったかも、とか。
そんなことを、うまく働かない頭で考えながら
走った。
黒うさぎのクロ。
名前なんてなかったかもしれない。
俺が勝手に、クロって呼んでただけ。
クロが死んでた。
うさぎ小屋の鍵は常に入り口の上の方に掛かってて、誰だって開けることができる。
それを手にとって開けようとするのに、指先が震えて鍵穴にぜんぜんハマらないんだ。
さらには涙まで出てくるもんだから、視界も滲んで、わけもわからなくなり始めたとき。
『おれに貸して』
いつの間にか隣に立ってて、俺の手からそっと鍵を奪い取ったのは七瀬だった。



