一瞬だけ、暗くなった。
七瀬も見えない、ただの真っ暗闇。
不安になって、一度目を閉じて、また開いた。
そしたら、目の前に、あの人がいた。
『本多の息子と遊んでたのか』
嫌な汗が滲む。
西中のセンパイに、俺と七瀬が仲良くしてるって、告げ口されたんだったかな。
これもまた、思い出したくない記憶。
これから、何をされるかわかってる。
殴られている間は、いつも妙に冷静でいられた。
この時の俺は、これが日常で当たり前だったから、おかしいなんて、思ったことなかったんだ。
体中を殴られて、蹴られて、意識が遠のくと冷水を掛けられ、また殴られる。
煙草の火を何度も押し付けられた。
首から下がアザだらけ。
この日は、本当に殺されるかと思った。
父さん。
人を人として見ていない。
それは……俺に対してもそうだったんだね。
そのことに気づいたのはもう少し先の話だった。
七瀬の涙を思い出して泣いた。
ただ、そういえば……。
母さん譲りのこの顔だけは
一度も殴られたことなかったな。



