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『こんなの絶対おかしい』


また場面が変わった。

七瀬がいる。


これは、いつの思い出か。



『おかしいって気づいて、るき』



たぶんまた、別の日の、ケンカのあとだ。

親父が殺される前の話。



おかしいって、何。

純粋に疑問に思った。

そのときは本当に、自分じゃ理解らなかったんだ。



『家族に殴られるのが普通なわけない。おまえがやってるのはただの奴隷だ』


黒蘭の息子が“普通”を語れるわけがないと思った。

お前も同じようなことやってんだろ、って。



七瀬が俯く。

唇を噛み締めていた。


その幼い顔から、雫が落ちてくる。

今度は、池の水、なんかじゃなかった。

………熱い。




『なんで、七瀬泣いてんの』


ひどく戸惑った、あの時の自分の声。