場面が変わった。
またぼやけてる。
何かの建物。
次に見えたのは……黒い旗。
存在感のある字で『鎮西会』と書かれている。
ああ、これは親父の事務所だ。
昔、西区を支配していた2つの組織。
黒蘭会と、鎮西会。
鎮西会なんて、今となっちゃ誰も口にするヤツはいないし、話を振れば、西区の人間なら「そういえば」と思い出すくらいのもの。
鎮西会の最盛期なんて、とっくのとっくに昔の話で。
俺だって、なかば都市伝説みたいな感覚で聞かされたくらいだ。
黒蘭会が勢力を伸ばして、力が及ばなくなったこちら側は、大人しく呑まれるしかない。
鎮西会は滅びた。
黒蘭会が、俺の親父を殺したから。
七瀬のお父さんが
──殺してくれたから。
こういう組織に正しいも正しくないもないかもしれないけど、あの時の俺の目には、確かに『正義』として映った。
黒蘭会。
極悪非道、冷酷無比。
そんな不名誉なイメージがついたのも、本当はすべては鎮西会のせいだ。
本当の悪は鎮西会。
狂っていた。
人を人として見ていないやつらの集まりだった。
西区の一般人にとっては、黒蘭も鎮西も、同じ系統の“ 組織 ” でしかなかったから。
鎮西会が滅びても、鎮西会の今までの行いは、すべて事実として残る。
一般人は、黒蘭と鎮西、どちらの悪行なのか、なんていちいち考えない。
何が起こっても『西区の “ヤクザ ” 』 という具合にひと括りにされて終わり。
ぜんぜん違うのに。