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「休戦」
深川がそう呟いたのは、それから数分後のこと。
「どうせもうすぐ朝がくる。上層部にバレれば本末転倒だ。ゆっくり夜を待とう。みんなに、そう伝えて」
落ち着いた声。
あまりにも静かだと思った。
予想外の展開に、少しは取り乱していてもおかしくないのに。
自分の女を盾にされたんだ。
素直に怒り狂ってくれた方がわかりやすくてまだ助かる。
「琉生くんも、今のうちに休んでおきなよ」
変わらず穏やかな声が言う。
「いえ。自分はもう、ちゃんと休んだので」
「僕の言うことを聞いて。君にはたくさん動いてもらわなくちゃならない。休めるうちに休め」
逆らうのは得策じゃない。
全員に連絡を入れたあとで、ソファにもたれ掛かった。
総長の『休戦』は絶対命令。
誰ひとりとして動いてはならない。
騒ぐことも許されない。
静かだ。
この状況が嘘みたいに。
─────ほんとうに、嘘だったらよかったのに。