わずかな沈黙が流れた。

中島くんのことについて、三成は驚いた表情を見せていたけれど何も言わなかった。



「くそ! ぐだぐた悩んでても始まらねぇ。まずは怪我の処置できる道具持って青藍に行くことだ。そうと決まれば動くぞ」


三成が席を立つ。
それに続いてふたりとも立ち上がった。



「もう、ここ出るの?」

「ああ。時間ねぇからな。外に柳居さん待たせてあんだ」


「っ、あたしも行く」

「バカか。ここで待ってろ」



無理を言っているのは分かっていた。

それでも、ひとりで待っているなんて耐えられなくて……。



「お願い、三成」


すがるように掴んだ手は、丁寧に払われる。



「無理だ。どんだけ危ねぇと思ってんだ。ふざけんな」


邪魔だから付いてくるなと怒られたわけじゃない。
本当にあたしの身を心配してくれている。


だけど。



「本多くんが、心配……だから行きたい」


目頭が熱くなる。



「……いーんじゃない。連れていけば」


山下くんだった。



「好きな人を守りたいって気持ちは、男も女も関係ない、誰だって同じ。そうだよね」


思わず目を見開いた。

本多くんが好きだなんて、ひとことも言っていないのに。
どうしてこの人は、わかったんだろう。


チッと舌打ちが落ちてくる。



「好きにしろ。どうなっても自己責任だからな」


ぶっきらぼうに言い放つ三成に、ありがとうとお礼を言う。

4人で部屋を出た。




「つーか、そのぬいぐるみはなんだ。置いてけ、さすがに邪魔だろ」



車に乗る前に、再度、三成に睨まれた。



「いやだ」


大きな黒いうさぎを、ぎゅっと抱きしめる。



「要らねぇだろ」

「いるの!」

「子供かよ」


悪態をついて、三成は助手席に乗り込んだ。



きっとあたしの私物だと思ってる。

でも、それでいいんだ。



──まだ、誰にも言っていないことがある。

ことの真相を、自分の目で確かめたいから。