暗黒王子と危ない夜


だから市川さんは、ふたりが人目を気にせずに会うことのできる場所をつくったんだ。

誰に見つかることもなく、本音でゆっくり話し、遊ぶことができる場所を……。



ふと中島くんの顔が頭に浮かんだ。


中島くんは本当に、本多くんのことを憎んでいるんだろうか。

灰田くんからあのことを聞いた時から、何度も何度も考えてきた。



市川さんの話の中のふたりは、仲が良くて、きっとお互いのことが大好きだったはず。


それは、いつの──いつまでの話なんだろう。




本多くんのお父さんが、中島くんの家族を殺害した──。

これが本当なら一体いつの話なんだろう。



家族を殺された。


平和に暮らしているあたしには、全く現実味のない話だけど、もし中島くんの立場に自分を置きかえるなら……。


想像するだけでも体が震える。

きっと、気がおかしくなってしまう。



「あの、市川さん、」


うさぎのぬいぐるみを抱え直した。


「本多くんのお父さんが、中島くんの、……」



かぞくをころしたって、ほんとうですか。


聞けない。聞けるわけがない。

よく知りもしないあたしが、軽々しく尋ねていいことじゃない。


顔をのぞき込んでくる市川さんに、なんでもないですと笑顔を返した。



その直後だった。


カウンターの方からなにやら騒がしい音がして、市川さんを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。



「ああ、ごめんね。僕は店のほうに戻るから、萌葉ちゃんはここでゆっくり休んでいなさい。また飲み物を持って様子を見にくるから」



そう言うと、優しい笑顔を残したまま部屋を出ていった。