「だからふたりが、それぞれ“普通”の家庭で育って“普通”に出会っていたら、どれほどよかっただろうと……何度思ったことか」
沈んだ声に、思わず。
「……普通?」
「萌葉ちゃんは、どうしてここに、“ふたりの部屋”があるか分かるかい?」
「え……」
ここは本多くんと中島くんが昔、一緒に遊んでいた場所。
1つのテーブルに2つの椅子。
本当の子ども部屋みたいに色んなものが揃えられている。
「どうして僕が、こんな部屋をつくったのか」
ひと呼吸おいて、市川さんは続けた。
「ふたりは仲良くすることを許されていなかったから」
「……、どういうことですか」
「わかりやすく言えば、家が敵同士だったから、だね。汚い大人たちが作った理不尽な環境のせいで、ふたりは幼いながらも人目を忍んで会うことしかできなかった」
ドクリ、と心臓が重たい音を立てた。
ふたりは……一緒に遊びたくても、遊べなかった?
「お互いの家庭の事情を理解していて、気兼ねなく喧嘩できて。本音をぶつけて傷を舐め合える、唯一の存在だったのにね」
どれだけ苦しかったんだろう。
大人の勝手な都合で自分の心を制限されて。
「お互いに仲の悪いふりをするしかなかった。喧嘩をすることだけが許された。それが唯一いっしょに居られる方法だった。本当に可哀想な子たちだった……」



