「この部屋だよ」
市川さんの声にハッとして顔を上げる。
そこは、カウンターからも死角になっている角部屋だった。
「七瀬君と琉生君がよく遊んでいた部屋でね。ふたりが読んでた漫画雑誌や当時の勉強道具もそのままにしてあるよ」
市川さんが照明をつけると部屋全体が見渡せた。
まさに子ども部屋という感じの、ほのぼとのしたどこか懐かしい空間。
本棚やおもちゃ箱。
ふたりで勉強ができるくらいの幅がある机と椅子。
「あの子達がここを使うことはもうないかもしれないが、思い出の場所であることは変わりないから、なるべくそのままを残して置きたくてね。掃除以外では手をつけていないんだ」
壁には戦隊ヒーローのお面が飾られていたり、油性のマジックで描いたと思われるらくがきがあったり。
恐竜のフィギアやサッカーボールなどの男の子らしいものがたくさん残っていた。
棚の上には、ふわふわした黒いうさぎのぬいぐるみがちょこんと座っている。
「これ、可愛い……」
わたしも昔、似たようなぬいぐるみを持っていたことを思い出して手に取った。
長年置かれていたはずなのに少しも埃っぽくないのは、掃除や手入れが行き届いているのだとわかる。
とても大事に残されているものたちなんだ……。
胸の奥がじんとした。
「ああ、そのぬいぐるみは琉生君のお気に入りだったものだね」
市川さんがあたしの抱えたうさぎを指さして、目を細める。
「、中島くんが?」



