バーの店内に残されて、しばらくその場に立ち尽くしていたあたしの肩を、市川さんが優しく抱いてくれる。
「温かいミルクをいれてあげよう。違う部屋に案内するから、そこで待っていなさい」
「……ありがとうございます」
周りにお客さんもいるというのに、情けない姿を見せてしまった。
自分がこんなに涙もろいなんて知らなかった。
ほんの小さかった頃をのぞいて、泣いたことなんてほとんどないはずなのに。
好きだから?
痛いくらいの思いが胸を締めつけるのは、本多くんに恋をしているから?
本多くんはエナさんを人質にとったと平坦に言っていたけれど、苦しかったに違いない。
黒蘭の総長の彼女だから、そんな素振りを見せられないだけで……。
本多くんが黒蘭を抜けてでも守りたいと思っている人、だから。
あたしが何の疑いもなく中島くんに付いていって黒蘭に捕らわれたせいで、本多くんの手をわずらわせた。
あたしは本多くんと出会うべきじゃなかった。
それに、深く知らないままだったら、好きになることもなかったはずだから──。



