本多くんが下の名前で “るき ” と呼んだのを、初めて聞いたかもしれない。
いや今は、それどころじゃなくて……と。
一旦気持ちを落ち着かせようと息を吐く。
迂闊だった、
中島くんのジャケットを羽織ってここまで来たこと……。
だけどよく考えてみれば、後悔する必要はないのかもしれない。
中島くんが黒蘭に居ることは、遅かれ早かれわかってしまうこと。
どうせ知られてしまうなら、なるべく早い方がいいはず。
敵だと知らずに接触してしまったら、最後──。
「なに、琉生君に追われてるって? 久しぶりに大喧嘩でもしたのかい?」
「まあ色々あって。全部終わったら話します、今は本当に時間がないから……」
顔色ひとつ変えずに市川さんと話す本多くんを見ていると、どうしてそんなに冷静でいられるのかと驚かずにはいられない。
中島くんが黒蘭にいると知って動揺しないの?
それとも、初めから知っていたの?
そんな事を考えているうちにも、時間は刻々と進んでいく。
「相沢さんのことお願いします。おれはもう、すぐにでもここを出なきゃいけないから」
その言葉に反射的に顔をあげた。