◆
◆
冷たい手に引かれながら、黒蘭の建物から出て、細い路地をただひたすら迷路のように進んだ。
本多くんが足を止めたのは、5分程経った頃。
クラブ裏口にあるコンクリートの階段にあたしを座らせた。
月は高い建物たちの影に隠れ、足元さえろくに見えない状態。
信じられるのは、あたしの肩を抱く本多くんの温もりだけ。
「大丈夫? 何も、されてない?」
ふたりきりになってから、初めてあたしに向けられた言葉だった。
「……大丈夫だよ」
ずっと怖かったけれど、本多くんが今あたしに触れて、ここに居ることを教えてくれるから。
もうそれだけでいいと思った。
黒蘭のことも、何もかも考えたくなくて。
考えてほしくもなくて。
それなのに、本多くんはあたしに傷がないことを確かめるとすぐに体を離して、空を仰いだ。
「時間がない。追手はすぐに来る」
「っ、そんな……」
「相沢さん。あと10分くらい、頑張って歩ける?」
頷くしかない。
「辛い思いさせてごめんね、」
ひどく掠れた声が路地に響いた。
◆
冷たい手に引かれながら、黒蘭の建物から出て、細い路地をただひたすら迷路のように進んだ。
本多くんが足を止めたのは、5分程経った頃。
クラブ裏口にあるコンクリートの階段にあたしを座らせた。
月は高い建物たちの影に隠れ、足元さえろくに見えない状態。
信じられるのは、あたしの肩を抱く本多くんの温もりだけ。
「大丈夫? 何も、されてない?」
ふたりきりになってから、初めてあたしに向けられた言葉だった。
「……大丈夫だよ」
ずっと怖かったけれど、本多くんが今あたしに触れて、ここに居ることを教えてくれるから。
もうそれだけでいいと思った。
黒蘭のことも、何もかも考えたくなくて。
考えてほしくもなくて。
それなのに、本多くんはあたしに傷がないことを確かめるとすぐに体を離して、空を仰いだ。
「時間がない。追手はすぐに来る」
「っ、そんな……」
「相沢さん。あと10分くらい、頑張って歩ける?」
頷くしかない。
「辛い思いさせてごめんね、」
ひどく掠れた声が路地に響いた。