状況は読めないものの、ここにいるのは危険だと。そう言われているのは理解できた。

灰田くんは口元に手を当て、しばらく考えるように俯いていたかと思えば。



「……火薬のにおい」


ぼそりと、そう呟いて。


「マズい」


青ざめた様子で、踵を返した瞬間。

振り向いた場所に、気配もなく、誰かが立っていた。



ドク……と心臓が跳ねあがる。


暗くて、すぐに顔を確認することはできなかったけれど、その立ち姿には見覚えがあった。



「残念、ちょっと遅かったね」


低く響いた声に確信する。


「詰めが甘かったんじゃない?って、そっちの総長に伝えておいてよ」



静かに歩み寄る影が、闇すら侵食するように及んだ。



「そっちの時間稼ぎは、おれの時間稼ぎにもなる。火薬庫のセキュリティはもっと万全にしておいた方がよかったかもね」


もう一歩、近づけば、完全に顔が見える距離になる。



「わかったら、その子をこっちに寄越せ。
……さもないと、」



暗がりの中、彼が──本多くんが、左手に、なにかを握っているのが見えて。


──それが起爆装置のスイッチだと、なぜか瞬時に理解できた。



「お前ら全員、この建物ごと吹き飛んじまうぜ」