ひと気もない、光もない。

すれ違う車はトラックばかり。

闇の中を抜けると、ぽつぽつと建物の灯りが見えてきた。



「ここら辺りは全部、黒蘭が仕切ってんだ。昼間は静かだが、夜になると人が集まる」



窓の外を見ていたら、耳元で話しかけられた。



「だから、多少派手なことやっても気づかれない。気づかれたとしても、周りは気にも止めない。思う存分暴れられる……恰好の場所だよ」



誰とも話したくないあたしの気持ちを無視して、この灰田という人は、無遠慮に距離を詰めてくる。

中島くんに聞こえない程度の声量で、彼は話を続けようとする。



「中学ん時、本多と中島も、ここらでしょっちゅう喧嘩してた。お互い血みどろでさー、よくもまあ懲りないもんだと思ってたけどね。今思えば、本多にとってはそれが唯一の生きがいだったのかも、とか思うわけ」



流れる景色を見つめながら、知らないうちに聴き入っていた。



「……生きがい」

ぽつりと繰り返してしまう。



「あの頃の本多は特に危うかったからなあ。 生きる目的がないとあいつは簡単に死ぬ、誰かが理由を作ってやらねぇと、壊れる。……って、そういやこれも、中島が言ってたんだっけ」



慶一郎さんの口からも、同じようなセリフを聞いたことがあるのを思い出した。



「つまり、中島がいなかったら、本多はとっくに死んでたかもしれねぇってわけだ。けっこう皮肉な話だろ」



数秒おいて、彼は「だから」と付け足した。


「このおもしれー話の結末、一緒に見届けようぜ」