周りの音すべてが消え去ったような感覚に陥って、しばらく息の仕方を忘れた。

ようやく吸い込んだ空気はやけに薄かった。



殺された……とか。

特に何でもないことのように口にされて、余計に戸惑った。



「中島が一人で黒蘭に戻ってきたときはビビったけど、別に驚くことじゃなかった。むしろ、よく何年も一緒にいられたよなって感じ」



鵜呑みにするな、と自分に言い聞かせる。


よく知らないこの人の言葉で、信じていたものを壊されたくなかった。

確かに中島くんは敵かもしれない。

それでも、黒蘭にいる理由が、本多くんへの憎悪だとは思いたくなくて。



確かにお互いが “嫌い” だと言い合っていたけれど、ふたりの間には、誰にも判らない強い絆があるって……。



「灰田、スマホは仕舞え。車を出す」



後部座席のドアから、不意に中島くんが顔を覗かせた。

タイミング的に今の会話は聞かれていないと確信はあるのに、心臓が激しく音を立てて止まない。


ドアが自動的に閉められる。

中島くんが助手席に乗り込んだと同時、車は走りだした。