いかにもわざとらしい憐れみの表情。



「あんたも立て続けに災難だね。本多七瀬に関わったばっかりに…… 」



違う、本多くんのせいじゃない……。

本多くんは必死で守ってくれようとした。


それに、近づきたいと思ったのはあたしの方だ。

危険だとわかっているのに、それでも、本多くんの世界に少しでも触れたいと思ったから──。



「顔色も悪いし可哀想になってくるぜ、まったく」



あたしが何も返さないからか、相手は諦めたようにため息を吐き、スマホをいじり始めた。


画面を横にして、何やらゲームをしているみたいだった。

今起きていることに、関心なんて全くないとでもいうように。


誰もが緊張感を漂わせている中で一人、どれだけ自由なんだろう。



「それさ、中島のだろ」


もう会話は終わったと思っていたのに、沈黙が嫌いなのか、画面に視線を落としたまま声をかけられた。


“それ ” がジャケットのことを指していると分かるまで、やや時間がかかり。

曖昧にうなずけば、彼は不意に、こちらに手を伸ばしてきた。



「中島って、優しいんだよな」



突然、何を言い出すのかと戸惑う。



「やさしーのに、時々すげー恐ろしくなる。振り幅がデカイんだよなあ。俺は未だに掴めねぇよ、あいつのこと。本多と同じくらい怖い」


掴めないのは、そういう灰田くんも一緒だ。

口には出さないけれど、心の中で返す。



「なあ、知ってるか」


耳は貸さないつもりだった。

今は余計なことは知りたくない。
不安を増やしたくなかった。

それでも、思わず顔を上げてしまったのは。



「中島は、家族を、本多の父親に殺されたって」