扉を音も立てずに閉めきると、隣の彼は、張りつめていたものを吐き出すように長いため息を洩らした。
それと同時。
拘束していた手があまりにあっけなく離され、困惑する。
盗み見た口元は固く閉じられていた。
「……なに」
あたしの視線に気づくと、彼は不機嫌な声を出す。
「……ううん、何でもない」
目を逸らす。
「自分に都合のいいことを信じてろって言ったけど、俺を信じろって意味じゃないから。勘違いするなよ、いいことないぜ」
淡い期待を抱いていた自分に改めて気づいた。
あたしはたぶん、深川という男を否定する言葉を待っていた。
それを中島くんの口から聞きたかった。
「相沢さんはあくまで人質。今回の件に直接関係はないから、言うことをきく限り手を出したりしないけど、利用されてるって立場を忘れちゃいけない」
期待するなと優しくない瞳が言っている。
中島くんは味方じゃない。
──だけど。
自由になった両腕をじっと見つめて、思う。
優しさを持たない人に、こんなことはできないんじゃないかと。