心臓が跳ねた。
強い力で引き寄せられ、体同士がさらに密着する。
スマホからは、空気の流れる雑音が伝わってくるだけ。
本当にそこに、本多くんが……?
緊張に似た感覚が体を襲う。
「そのまま切らずに返事をしてくれないかな。でないと今、僕のそばにいる、君の大切な女の子が痛い目に遭うよ」
髪先に触れられたのが分かり……。
その矢先だった。ガタン!とスマホから荒々しい物音が聞こえたかと思えば
『……どういうことだ』
鼓膜を揺さぶったのは、確かに……紛れもなく、あたしの好きな人の声。
「あーっ七瀬くん久しぶり。まったく君ってやつは。焦らさないでよね、初めから返事をすればいいものを」
『無駄口はいらない。何をしたのか言え』
「いったん落ち着いてよ〜。こっちには人質がいるんだ。まずはゆっくり話をしよう。それから、僕の要求を飲んでもらうよ」
髪から離れた手が、今度は腰に回る。
「どうだった? けっこう手こずった? それとも雑魚すぎてリハビリにもならなかったかな、もしそうだったらゴメンね」
『……目的は?』
「ただの時間稼ぎだよー。君が“僕の”黒蘭を潰すつもりなら、僕は対抗手段をとらなきゃいけない。そのために、ちょっとばかり時間が必要だったんだ」
彼は続けた。
ひと呼吸ぶんの間があった。
「黒蘭はもうお前のものじゃない。僕の理想郷を見せてあげるからおいで」



