こっちにおいで、というように手招きされる。
横たわっているエナさんをもう一度見ると、足が竦んだ。
「琉生君、彼女の手を離して」
変わらず穏やかな口調ではあるものの、有無を言わせぬ圧があった。
離さないでほしい。
見知らぬ恐怖にひとりで立ち入りたくない。
たとえ敵だとしても、中島くんに繋ぎ止められているほうが、冷静を保てる気がするから。
声にならない願いは届くはずもなく、拘束はあっさり解かれる。
「ちょうど今、本部と連絡をとってたところなんだ。本多七瀬がどのくらい暴れられるのか、監視を頼んでてね。君も1回会ったことのある人物なんじゃないかな」
スマホの画面がこちらに向けられた。
中央に映る男性の写真。
思い出したくもない顔は、本多くんと初めて話した日の夜に、あたしを襲ったメンバーのひとりだった。
「この前、本多クンにみっともないくらいやられて帰ってきて、戦闘要員としては使い物にならなくてさ。現場を実況してもらうための監視役くらいなら任せられるかなって思ったんだ」
電話はまだ繋がっているようだけど、相手と話をしている様子はなく。
「……でも、本多クンに見つかっちゃったみたいだね。山本からの応答、途切れちゃった」
目の前の男は、くっと喉を鳴らした。
「その代わり、良いタイミングで奴と連絡がとれるかもしれないよ」
腕を引かれた。
中島くんとは違う煙草の匂い。
視線がぶつかって、その目が怪しげに細められる。
「もしもーし、本多七瀬くん? 聞こえてるかな、そこにいるんでしょ」



