暗黒王子と危ない夜



正面に座っていた人物は、想像とはだいぶ離れた外見をしていた。


黒い髪を全体をゆるく後ろに流していて、薄いグレーのトレーナーに黒地のパンツ。

ピアスや指輪といった装飾品は見当たらない。


全く“派手さ”がなかった。

目を疑う。本当にこれが、悪名高い黒蘭のトップに君臨している人物なのかと。


だけどその数秒後、ソファに横たわる人影が目に入って、はっと息をのむ。



「琉生君、ご苦労さま」


柔らかな口調。

甘やかすような声。

緩やかにあがった口角。



「深川さん、これは……」


遠慮気味に尋ねた中島くんに、相手は軽い笑い声をあげた。



「ああ、僕の言うこと聞かないから、黙らせただけだよ。最近わがままがすぎるんだよねぇ」


ソファを振り返りながらそう話す彼は、少しも悪びれた様子はなく、むしろ楽しんでいるようにも見えて寒気がした。


黒いソファの上に横たわっているのは、この人の“彼女”……のはずで。


それなのに、制服のあらゆるところがはだけて、あらわになった肌には、いくつもの痛々しい痣が刻まれている。



「今回のことに、エナさんは関係ないでしょう。これ以上手を上げるのは……」

「うるさいなぁ、琉生君こそ関係ないだろ。これは僕とエナの問題だし、口出しは許さない」



途端に目つきが変わった。貫くような鋭い視線。
むき出しにされた怒りが刃を向ける。



「……すみません」

小さく謝った中島くんを一瞥し、それからその瞳はあたしを捉えた。

ビク、と肩が上がる。


「大丈夫。そんなに怖がらなくていい。僕は、僕に従う子には優しいよ」